お月様の本

暗いお話です。口に出せない思いを文字へ。

金魚


例えば、鉢の中。金魚は考えるの
「背鰭がもう少し、綺麗だったら?」

私に誇れるものがあったなら、
何か、変わっていたのかもしれない。

それで言うならば、
狭い鉢に収まることはなかったかもしれないし、早死することもないかもしれない。

でもそれは、"例えば"に過ぎないことを
私は良く知っているのです。


彼女は言いました。
「どうしても"私"を辞めたいなら
  今すぐにでも飛び出してしまえばいいのに。
 蓋なんてどこにもないのに」


金魚は思いました。
「だって、もしかしたら、
  もしかしたら…」
水の中はとても無機質でした。


"それ"から飛び出すことは簡単です。
蓋など、どこにもないのですから。

それを私がしないのは、何かを期待をしたり、奇跡を待っているからではないのです。

飛び出してしまうことは自らを辞めること。
それは、死です。
「もしかしたら、もしかしたら。」
もしも話を続け、誤魔化しているだけで、ただ私が臆病なだけ。

それには何の意味も、ないのです。