お月様の本

暗いお話です。口に出せない思いを文字へ。

私の今日

素直な言葉ほど重いものはない。

 
「本当に、何もできないのね」
 
ぽろ、と零したような言葉
すぐに口を抑える動作
顔を上げない私に狼狽えるその人は、
何も悪くなどなかった。
こみ上げる訳でもなく落ちた涙
嗚咽もなく、ただ冷たい涙が床に。
そういうわけじゃないの、と慌てる口ぶりなど何も響かずに最初の言葉が反響した。
"何もできない"
あれは嘘ではなかっただろう
悪意のない、素直な言葉だ。
だから、深く刺さったのだ。
悲しくも、期待通りに慰めの言葉も降ってこない
手を止めた周りの視線を視界の端に捉えたまま、
震えた手の行き場もなかった。
 
"消えてしまいたい"
 
そう考えて昨日の私を思い出した
 
"死にたいわけではない"なんて、そんなの昨日やこないだの私だ。
今日の私が死にたくてもいいだろう。
 
「あ、謝りなよ…」
 
気まずそうに発せられた誰かの声
それはきっと私に対する本心じゃない
この空気に耐えられない誰かの声
それが引き金だなんて都合良いことを考えて
耐えきれなくなった私はついに逃げ出した。
 
そんなの皆思ってると知っていた
だけど、涙は落ちたし
顔も上げられなかった、手も震えた。
 
やけに暖かい今日の気温
懐かしくも思い出すその温度は、二度と思い出したくない思い出。
そんな中で止まらない涙
無駄に上がっていく息に走る度縺れる足、
後ろは誰もいない
呼び止める声もない
 
 
 
思い出す文章
 
 
 
 
その文章を私のために書いてくれた子
 
あの子と顔を合わせ、出会っていたのなら
 
あの場面で私を庇ってくれて
逃げ出しても呼び止めてくれて
本心で励ましの声が聞こえてくるのではと、
妄想ばかり、
 
妄想しても現実は現実だ。
 
 
 
 
 
「みんな嫌いだ」
 
 
 
 
 
嫌いだ
ただ嫌いだ
どうしても、嫌いなんだ
 
嗚咽が漏れて
それでも叫べない
 
なんて悲しいんだろう
 
あの教室はどうなったんだろう
誰かは笑うんだろう
 
 
私に優しい明日なんてなくて、
今日だって何もなかったことになって
全て忘れて死んじゃえればいい。
 
 
ああ
誰か、かわってくれればいいのに
 
 
だから、帰り道の横断歩道前、信号待ち
私は飛び出してでもしてしまいたかった。
誰か轢いてくれればいい
何も残らなければいい
それで誰かが言った通りになる
 
「……」
 
通り過ぎていく自動車
青になった信号
横断歩道へ踏み出す足
 
 
 
何もできないまま
 
 
ただ、明日も死ぬほど辛い思いをして
 
 
 
 
生きるんだ。
 
 
 
君だけが、支えだ。