お月様の本

暗いお話です。口に出せない思いを文字へ。

整理

私の悪い癖だ
手に入れてしまえば、捨てられない。
思い出に縋り、"いつかまた"と、何度も。
愛おしくなっては離せず、執拗に執着しては突き放されてきたのだ
その度泣いて、それでも離さなかった。
"懲りない奴だ"と言われても構わないと、ただただ大事にしていた。
思い出を捨てられないのは悪い癖だ。
綺麗で眩しく、時には暗く
美しいそれをいつかは忘れてしまう。
それでいい、
それでいいんだ。

どうせ誰も触れやしないだろう
ましてや、壊すことなんて。




ああ、悲しいなあ。

私という人

またふらふらとそこに立っては、目を閉じる
暗いだけのその視界で、平衡感覚を無くせばただ、落ちていく。
何が引き金になるのでもない
私がここにいるからだ
少し、前に倒れようとする身体に抵抗しようとは頭では思えなかった
それでも身体は反射的に手を付こうとして脚をぶつける程度だった。

ぶつけた痛みが、生きている自覚が、全てが。
なんて虚しい
なんて惨めな
"それでも死ぬよかマシでしょう?"
そんなこと、誰が言ったのでしょう

死にたいとは思わない
生きたいとも思わない

記憶の中の君なんて今と大して変わらない。
死んだら君に会えなくなるよりも、君を思い出すことすら出来なくなるのが、私は私が何も分からなくてもとても辛く悲しい。

「何とかなるって!」


誰がそんな無責任なこと言ったのでしょう

私は苦しくて堪らない
どれだけ泣いても強くはなれず、
優しい人にもなりきれない。


ああなんて馬鹿馬鹿しい
優しくならずとも、強くならずとも生きてはいけるだろう。
笑ってくれる人がきっといるだろう。
それでも私は望むのだ

捨てきれないまま、朝を待つのだ

「今日がきた」


同じことを何度も繰り返しながら、私は。

メメント・モリ

もう何年だ

最初に死のうと思ってから、
もう何年経っただろうか。
過去の幸福を思い返すほど、"もう少しだけ"なんて言い訳をした
それでもそれは、ただ死ぬのが怖かっただけで
何の意味もなかった。

私が死のうと思ったのは、
私がまだ無知だったから。

私が死のうと思ったのは、
冷たい人だと言われたから。

私が死のうと思ったのは、
私が出来損ないだったから。

私が死のうと思ったのは、
色んな人がもう、隣にいないから。


怖くて自殺もできない
だから死にたいだなんてもう言わない


「明日はきっと良いことがあるさ」
扉のヒモに手をかけて、それでも首には通すことができないまま。
ただその言葉だけを頼りに、口にした。





私にもし、首にかける勇気があったのなら
重たいドアを引いた母親はどんな顔をするだろう

死んだ時の想像だけしながら、
死ぬ過程には何も想像ができない

では何を恐れているのか




君に会えないこと
約束を守れないまま死んでしまうこと
君にそれを、伝えられないことだと言ったら君は嘘だと笑うかなあ。

Dear

いつも変わらない0の通知は、彼女を苦しめ続けた時間そのものだった。
何も気づけず、呑気に返信を待っていた私に"ごめん"と言ったのだ
一体、どのような心情で何を思いながらその長い文章を連ねたのだろうと考えると心臓が刺されるように痛くなった。
もしかしたら、泣いていたかもわからない
私を忘れたことのない彼女が、たくさんの思いを抱えながら過ごしていたのだと考えるのは、会えない距離感と無機質な液晶に殺されるようだった。
きっと、やるせなさに苦しんだのだろう。
そう思わせたのも結果、私であったのに、"助けた気になっていた"だなんて私の方が寂しくなるようなことを言わないで。
彼女と出会った事実や、話した思い出に貴女が同じ地に存在するだけで
どこか助けられていたのだから。

彼女が書いた言葉は私を突き放す言い分ではなかった事が明白だ
貴女の優しさからかもしれない。
それでも私は嬉しかったし、関係を絶つつもりも毛頭なかった。
だからこそ、貴女には変わらずそこに居てほしい。

いつか関係が無くなってしまうかもしれないその時まで、ずっと一緒にいて下さい。

私も大好きです

これかもたくさんの心配をかけると思う。
それを貴女が明るく吹き飛ばして欲しい
私の方がよっぽど自分勝手だ
だから、"助けた気になっていた"とか寂しいことを言わないで
ちゃんと貴女に救われていたよ。


私は変わらず明日も返信を待ちます。
返ってこなくても、貴女が送ることをまた躊躇っても、そこにいます。

だから、好きな時に話しかけてください

もう、泣いたりしてないといいな。
私に笑っている貴女を想像させてほしい。

Forgive me

いらない話をする母が、私の知らないところで、私の知らない人と私のために、私を貶し、馬鹿にして甲高い声で笑う。

「そう!本当にダメなのよあの子!あはは!!!!」

丸聞こえな声を隣の部屋で知らないふりをして何も聞こえないイヤホンを耳につける。

聞きたくないなら、聞かなければいいのに、気になってしまう私はやっぱりどうしようもなく人間なのだ。

私の気持ちも知らないで。

そんな言葉が出てしまうのもなんとなくわかった気がした。

中途半端な点数は母は興味がないとでもいうように煙草をふかしただけだった。

所詮出来損ない。

テスト前に不安だ、不安だ、と私が言えば「低い点数でもいいから」って背中を押した。

なのに、帰って点数を渡せば「ちゃんとやらないからよ!!!」

怒った母が用紙を握り、投げ捨てた。

出来損ないはいらないのだ。

そんな子供は愛されない。

「塾行ってないんだから!!行かなくても出来る子と違うでしょう!あんたは!!!

自分が周りと同じようにある程度出来てると思ったら大間違いよ!!」

ああ、そんなんじゃない

そうじゃないから

わかってる、わかってるから

もうそんなこと言わないで、

「夢もない貴方だから頑張れないのよ!」

「変な二次元好きになって…!馬鹿じゃないの!?」

もうやめて

悲しいから、苦しいから

たかが自分の株を上げたいがために、私を貶さないで

聞いているから

聞こえているから

「人見知りも激しくて、周りの子と何か違うのがかっこいいとでも思ってる!?」

ちがうのに

どうしてなんで

笑わないで

ちゃんと褒めてよ


「私、頑張るからさ」

なんでもない話

酷い、ひどい、と幾分気温の低くなった廊下で蹲り、泣きじゃくる友達。

雨の落ちた音が長い廊下に響く。

パンツ丸見え、なんてどうでもいい事言ってみたけど、やっぱりどうして、とかそんな言葉が口からぽろぽろ涙みたいに。

顔からいろんなもん出しすぎ、なんて失礼極まりない事もちろん言ってみた。

うるさい…、としゃくりをあげながら怒ってたけど。

運命の人だった、どうしても愛されたかった。

そんなような事を言っていた彼女だったけど、少ししてから瞼を真っ赤に腫らして、もういい!って怒ってどっか行っちゃった。

勝手だなあ、なんて思いながら後を追うわけでもなく今度は私がそこに蹲ってみた。

もちろん、誰がパンツを見てくれるわけでもないんだけど、寒い廊下に寒そうなスカートで。

しばらくして、瞼は腫れてないけど鼻水が出た。ズズッて間抜けな音出した後1人で廊下を歩いていった。

なんとなく後ろを振り向いてみたけどそこには友達や私がいるわけではなかった。

ブブって携帯が鳴ったから、少し何かを期待して開いてみたけどただの動画投稿の通知で溜め息ついたら階段で転んだ。


下にいた友達に「パンツ丸見え」って、笑われた。

マザー

勉強している間、母は笑っていた。

遊んでいる間、母は怒っていた。

「どうしてもっとやらないの?」

怖い怖い顔をして、簡単に言ってくれた。

それは決して間違っている事ではないから私は何も言えなかったし、勉強したくない言い訳だってこと自分がよくわかってた。

「...うん」

その通りです、

言わない一言を頭の中で。


安心なんかしてんじゃないわよって

もっと頑張りなさいって


漫画みたいな言葉が突然沢山降ってきて、でも


「所詮はあいつと私の子よね」


生まれる家庭は選べない。

母がいなければ私は存在すらしない。


あなたが生んでくれたから、私は何も言わないよ。

感謝してるから。



「お母さん仕事で疲れてるのよ、ご飯勝手に作って食べて」


外食してきたレストランのレシートが鞄の中からでてきて、母の寝息だけが聞こえるリビングで握り潰してしまう事も出来ずに元に戻した。

私も、勉強大変だったよ。

だから、一緒に作ったりしようよ。

お手伝いするからさ。


「.......寂しい...」


冷めたご飯に涙がおちた。





次の日、何もなかったようにお母さんは笑った。

「おはよう、早く支度しちゃいなね」

本当に何もなかったのだ、母にとっては当たり前のような事だっただけなんだ。

「うん、おはよう」

だから私も笑ったのだ。


その一瞬の優しさでいい、私はそれを求めて貴方の子であり続けるのだろう。


どれだけ私が夜に寂しい思いをしても、次の日母は笑っている。




それでいいよ、おかあさん。